No.219
9価子宮頸がんワクチンと男性へのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種について
感染症 | 2021年06月発信
子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス (HPV) というウイルスの感染が原因で起こることが知られており、我が国でも2013年に小学校6年生から高校1年生相当の女児に対するワクチンの定期接種が開始されました。ちなみに子宮頸がんワクチンは女性のみを対象としたワクチンであるという認識が一般的だと思いますが、実は男性も対象となるワクチンであることをご存じでしょうか。この理由を説明するために、HPVの特徴を説明します。HPVは、主に性交渉によって感染し、生殖器やその周辺の粘膜にイボを生じるウイルスで、100種類以上の遺伝子型が存在しています。ちなみに遺伝子型というのはインフルエンザでいうところのA型、B型のようなものです。そのうち特にがんに進行するリスクの高いHPVが子宮頸部に感染することにより、そのうちの一部が子宮頸がんに進行するわけですが、それ以外にも女性の膣がんや外陰がん、男女の肛門がん、中咽頭がんの発症にも関与していることがわかっています。またリスクの低いHPVも尖圭コンジローマなどの性感染症の原因になることが知られています。つまり男性もHPVワクチンを接種することにより、HPVによって引き起こされる可能性のあるがんを予防することができ、さらに未感染のパートナーにリスクの高いHPVを感染させてしまう確率を低くすることができます。
これまでに国内で厚生労働省に承認されたHPVワクチンは、子宮頸がんの主要な原因であるHPV16・18型を予防する2価ワクチンと、さらに尖圭コンジローマの原因となるHPV6・11型も加えた4価ワクチンの2種類がありましたが、2021年初めに子宮頸がんの原因となる遺伝子型のカバー率がこれまでの2価、4価ワクチンの約65%から約90%に拡大された9価ワクチンが発売されました。ただし現時点で9価ワクチンは任意接種のみで、女児の定期接種のワクチンとしては使用することはできません。また2020年12月に9歳以上の男性への接種が承認されたHPVワクチンは、4価ワクチンのみで、9価ワクチンは男性には任意であってもまだ接種することはできません。
我が国では子宮頸がんワクチンが定期接種化された直後に、広範囲の痛みや運動障害を認める症例が報告され、わずか2ヶ月後には積極的に接種を奨める勧奨が差し控えられた影響もあり、ワクチンの接種率が長らく低迷していましたが、昨年後半に厚生労働省から各地方自治体に、HPVワクチン接種対象者への周知と、接種機会の確保を図ることが求められたことをきっかけに、一時は1%未満まで低迷していた接種率が最近は20%近くにまで回復してきました。今後は高い予防効果が認められており、海外では主流になっている9価ワクチンの定期予防接種化と、男性に対するHPVワクチン接種のさらなる啓蒙が期待されます。