HOME > 健康情報 > 健康一口メモ > 糖尿病の新薬について

No.187

糖尿病の新薬について

内科・精神・老年 | 2014年09月発信

糖尿病の歴史は古く、ギリシャで紀元1世紀頃、「喉がとても渇く、やせ細る、尿量が増える、甘いにおいの尿が出る」原因不明の病気とされていました。発症すれば数年で必ず命を落とす恐ろしい病気だったそうです。当時は、インスリンはもちろん知られておらず、唯一絶対の治療が飢餓療法でしたが、少しの延命効果だけで餓死する方も多かったようです。
 1800年後半になっても、「膵臓にあるランゲルハンス島が糖尿病と関係があるらしい」とはなんとなくわかってきていましたがそれだけでした。
 1921年にインスリンが抽出され、1922年に初めて14歳のⅠ型糖尿病の少年に投与され効果を上げました。最初は牛や豚の膵臓からの抽出から始まり、今では大腸菌の組み替えDNAによるヒト型のインスリンが、患者さんが自分でもうてる注射剤として使用されています。
 現在、糖尿病治療薬にはそのインスリン注射以外の内服薬として、インスリン分泌促進薬、インスリン抵抗性改善薬、食後高血糖改善薬と大きく3つの柱があります。患者さんの状態、体質、個性に適応した薬を主治医が細かく選択して治療しているのです。
最近になって、全く新しいメカニズムで血糖値を下げようといった治療薬が登場し、保険医療の適応となりました。「SGLT2阻害薬」です。(SGLTとは、sodium glucose transporterの略で、「ナトリウム・グルコース共役輸送体」と呼ばれ、ブドウ糖やナトリウムといった栄養分を細胞内に取り込む役割を担っています。)
 今までは、血糖値を上昇させないように、尿糖をださないように、と治療していたのですが、このSGLT2阻害薬は腎臓(近位尿細管)での糖の再吸収を行うSGLT2を阻害することで糖を尿中にどんどん出してしまおう、尿に糖がたくさん出ることで結果的に血中の糖を下げてしまおう、という発想です。
 以前からの糖尿病治療薬をほとんど服用され、インスリンを併用していても血糖値が不安定な患者さんに、この薬を追加すると血糖値の振れ幅も改善するように見受けます。低血糖も起こりにくいもので、肥満傾向で糖尿コントロールの悪い方などは、主治医のご判断により、本薬を試されても良いと思われます。主治医から勧められるケースもこれから増えてくると思われますので、ご確認ください。
ただ、その作用から、脱水や尿に糖が出続けることによる腎機能に与える影響、尿路・性器感染症の増悪、コレステロール・血圧への影響、腎性糖尿の場合の栄養障害等が発売前から懸念されていました。
 既に報道もなされましたが、販売直後調査では、脱水症状に伴うとみられる12例の脳梗塞、6例の心筋梗塞・狭心症が報告されています。このため65歳以上の高齢者、脱水症状を起こしやすい患者さんに投与するときは十分に注意する必要があるとの注意喚起が、あらためて糖尿病学会からなされました。
 食欲不振などで食事がとれなくなった場合(シックデイ)にはすぐに休薬してください。ビグアナイド薬も脱水にともなう合併症の可能性もあることから、これを併用するときは特に注意が必要です。
 他に皮膚症状として薬疹、発疹、皮疹など重篤でない副作用も500例以上報告されています。
もし粘膜に皮疹、発赤、びらんを認めた場合は重症化する恐れもあるので皮膚科医に相談しましょう。
 尿路・性器感染症は併せて200例の報告があり、頻尿など少しでも自覚症があれば、早めに泌尿器科、産婦人科に相談しましょう。もちろん、何かあれば一番に主治医にご連絡ください。
 一定の副作用はどの薬にもありますが、このような新しい治療薬を、あくまでも医師による正確な診断と指導のもとに慎重に使用さえすれば血糖はかなり安定しますし、今後の糖尿病治療の大きな柱になる可能性を秘めています。