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No.224

新規肥満症治療薬について

内科・精神・老年 | 2024年03月発信

 新たな肥満症治療薬として、セマグルチド(商品名ウゴービ®)という自己注射薬が日本でも認可され、2024年2月より発売となりました。セマグルチドはヒトの体内で作られるGLP-1というホルモンに似せて作られた薬剤で、血糖を下げたり、食欲を抑制する作用があります。血糖を下げる作用を利用して、すでに日本でも糖尿病治療薬として使用されています。今回は、もう一方の「食欲を抑制する作用」を利用して、肥満症治療薬としての使用が認められたのです。ご存じのとおり、肥満があると、糖尿病や脂質異常症、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞といった健康をおびやかす病気を発症しやすくなります。肥満に伴いこれらの病気を合併している場合、「肥満症」というひとつの病気としてとらえ、肥満そのものの治療が必要というように考えられています。肥満の程度を示す指標としてBMI【体重(kg)÷身長(m)2】 が用いられ、この数値が25以上で肥満、35以上で高度肥満となります。セマグルチドの治療対象となる「肥満症」は、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを有し、(1)BMI35以上、あるいは(2)BMIが27以上で、肥満に関連する健康障害を2つ以上有する、という条件があります。つまり、単に肥満だけの「ダイエット目的」では使用できません。また、処方のできる医療機関は、日本糖尿病学会などの教育研修施設であることが要件となり、地域の総合病院などに限定されます。

 セマグルチドによる治療は、週1回の注射を患者自身で行います。食欲を抑える一方で、副作用として、吐き気や嘔吐、下痢・便秘といった消化器症状が見られることがあります。治療効果については、アジア人401名による臨床試験において、体重が約13%低下したと報告されています。たとえば、体重80kgの人であれば、10.4kgもやせたことになります。体重が減少したことで、血糖値やコレステロール値、血圧にも良い影響が認められました。また別の大規模な臨床試験においても、セマグルチドは約9%の体重減少をもたらし、動脈硬化が原因となる心筋梗塞や脳卒中などの「心血管疾患」を20%低下させることが報告されました。
 使用に際してはいろいろと制限は付いているものの、セマグルチドは、肥満症に関連する重篤な病気(心筋梗塞や脳卒中など)の危険度を下げるための「肥満症治療薬」として非常に期待できる薬剤と言えるのではないでしょうか。

 

【本原稿の執筆者】 
みやけ内科クリニック 三宅 一彰