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No.185

新しい高血圧治療ガイドラインについて

内科・精神・老年 | 2014年05月発信

高血圧治療ガイドライン2014

 日本高血圧学会は「高血圧治療ガイドラン2014」(JSH2014)を公表しました。前回のガイドラインであるJSH2009と異なる点がいくつかあります。※(附)参照

若中年者 降圧目標<140/90mmHg(診察室血圧) <135/85mmHg(家庭血圧)

まず、若年者・中年者で130/85mmHg未満を降圧目標としていましたが、JSH2014では若年、中年、前期高齢者で140/90mmHg未満が降圧目標となっています。数値だけ見ると、降圧目標が緩和されたと誤解されるかもしれませんが、まず降圧薬を使って140/90mmHg未満へ降圧し、その後は正常血圧130/85mmHg未満を努力目標とするため、降圧目標の考え方は変わっていません。これまでの治療によって130/85mmHg未満にコントロールされている方の治療まで弱める必要はないということです。心血管イベント、特に日本人で比率の多い脳卒中に関しては、血圧が低いほど発症率も低くなります。降圧目標に到達するのはなかなか難しく130/85mmHgを目指した治療を行って到達できる患者さんは半分以下でこの140/90mmHg未満という数値は現実的な目標といえます。

糖尿病 降圧目標<130/80mmHg(診察室血圧)  <125/75mmHg(家庭血圧)

糖尿病合併高血圧の降圧目標は130/80mmHg未満に据え置かれました。欧米のガイドラインでは140/90mmHg未満に緩和されていますが、日本では心筋梗塞より脳卒中の発生が多く、心筋梗塞の多い欧米とは疾病構造が異なります。脳卒中を主体とした心血管病を予防するには130/80mmHg未満の厳格な血圧管理が求められています。

主要降圧薬と第一選択薬

 JSH2014では、積極的な適応のある場合に用いる降圧薬を「主要降圧薬」とし、Ca拮抗剤、利尿薬、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬の5剤がそれに当てはまります。一方、合併症のない高血圧患者の最初の治療に用いる薬剤を「第一選択薬」としました。主要降圧剤からβ遮断薬をのぞいた4剤です。β遮断薬は心疾患を合併している例に積極的適応があります。一方で、糖代謝、脂質代謝に悪影響を及ぼす可能性があり、基礎疾患のない症例で用いる第一選択薬からは除外されました。その他、心筋梗塞後、糖尿病合併、慢性腎臓病合併高血圧患者ではACE阻害薬、ARBが積極的適応となります。現在、日本ではCa拮抗薬とARB、利尿薬とARBの合剤が発売されています。これらは副作用の少ない薬剤の組み合わせで安全に用いることができ、服薬継続率向上のためにも、II度(160-179/100-109mmHg)以上の高血圧患者さんでは積極的に配合剤の使用が考慮されてよいと思われます。

高血圧の診断・治療では家庭血圧を優先

 JSH2014の特徴の一つとして、診察室血圧と家庭血圧の診断結果が異なる場合、家庭血圧による診断を優先させて治療を行うことが明記されています。
家庭血圧の測定は患者さん自身が治療に積極的に関わるためのきっかけになります。毎朝、毎晩の自身の血圧を把握することで、服薬を忘れないようにする、食塩を控えることを心がける、あるいは運動を心がけるなどのよい影響が期待できます。ぜひ、家庭血圧を測定し、充分に納得した上で治療に参加するようにして下さい。

(附) 人間ドック学会と健康保険組合連合会が本年4月に発表したいわゆる「基準範囲」について
 
 今回の「メモ」で紹介されましたのは、日本高血圧学会が4月1日付けで発刊した新ガイドラインによるものですが、これまでの日本における各種のしっかりしたエビデンスを集約し、オープンな検討経過とパブリックコメントも経た学術的な内容であり、高血圧治療に関わる医師に対する当面の最も基本的な指標となるもので、患者さんに対しての指導もこれに基づいておこなわれることが原則となるものです。
 一方、丁度それに合わせたように、マスコミ発表された標記の人間ドック学会と健保組合による「基準範囲」の発表は、わずか10名程度の委員による「調査研究小委員会」がクローズな形で検討した、疫学的にも科学的にも不完全で未完成なもので、しかも、「医療費適正化に資する」ことを目的として、医療費保険料負担に関わる健康保険組合側の委員が多数参加したもので、その科学的中立性すら疑われる内容です。
 あたかも、それが従来の日本人の「健康基準」を変え、「147/94mmHgまでは正常で治療不要」とした決定であるかのように報道され、患者さんの誤解を招き、臨床の現場に混乱を招いています。これらを鵜呑みにした患者さんが、これまでの治療を中断して、脳出血等の重大な結果を招いたら、誰が責任をとるのでしょうか。結果として、医療費は更にかかり、「医療費適正化」の意図に反する結果すら想定されます。
 その元となった「論文」は、「150万人のメガスタディ」として、今流行の「ビッグデータ」によるとしてその意義づけを行っていますが、実際は、「健康人」の定義づけを米国の国家委員会の基準に合わせたとしながら、最も重要な血圧とBMI(肥満度)を省いたもので、特定時点のデータのみスクリーニングしたものを「基準個体」とし、なおかつ特定委員の「潜在異常値除外法」という方法で純化させた特定検査項目毎にグループ化し、結局それぞれは1~2万人程度の抽出された集団分析に過ぎません。
 それを「超健康人(スーパーノーマル)」などと名付けて、その「基準範囲」を設定
発表すれば、あたかもその範囲に今入っておれば「超健康」と誤認されることは、明らかです。そもそも選定基準から省いた血圧ではものも言えない筈です。
 多額のドック費用が出せて、自分は「健康」と思って薬も飲まず現在治療も受けていない、恵まれた方のある時点の特定データだけをいくらたくさん集めても、国民全体を代表するものでもなく、比較対照の設定もなければ、そのグループの経年的な変動の検証もされていないデータでは、その方が「健康」であり続ける保障は全くありません。従って、予防的観点からしても、今回の設定自体に根拠は全くありません。
 流石に、これが「一人歩き」する可能性と、更に「5~10年の追跡調査」が必要と、最後に「論文」は触れてはいるものの、既に最悪の「誤認」がマスコミを通して「一人歩き」してしまっているのです。
 これは、影響の大きさから言えば、例の「STAP細胞」を巡る「論文」の可否よりも罪作りで、無責任なものと言えます。日本医師会と日本医学会は5月21日に連名でこれに対する批判文発表と合わせ記者会見を実施しました。
 この「メモ」をご覧の方々、とりわけ高血圧治療の必要な方々がこのような誤った発表とマスコミ報道に振り回されないことを、心より願っております。

 
◆関連資料